「貴空」
菊尾
湿度は低く
強い風が首筋から熱を離れさせていく
所在無いまま白い月に見透かされている
打ち解けたい内緒はもう何も無い
君の匂いが鼻先を掠めて
話し始めた頃のことを思い出した
望んだり
割り切ったり
落ち着かないまま
揺れて、揺らされて、
華奢な白い腕が空へと伸びていく
ゆっくりと君の顔に細い影が重なる
いつでも聞いている
その声を聞いている
澄んだ静寂を相手に
君が今まで紡いだ幾つかの欠片が
散り散りになってしまったこと
それを僕は知っている
距離は未だあやふやで
取った手はどこか冷たくて
何故だか君は笑っていて
どこかでチャイムが鳴っていて
通り慣れた道に紫陽花が咲いていて
午前中に神様が掃いた空
綺麗すぎて怖い空
僕らはただの点になって
見上げながら
手を振った
笑いながら
手を振った