くものいと
かとうゆか

その空には雲がかかっていた
君は君らしくありたいらしく
空は空らしく空っぽがいいといっていた

真綿のような白い大きな雲
を はしからつまみだそうとしたが
どこがはしかわからず
しばらくためらった君は
けっきょくは真ん中から
つまみ 紡ぎはじめ
……カラカラカラ
紡がれていく糸のようすはとても新鮮で
僕は夢中になった

君は
まひるの雲から純白の糸を紡ぎ
日に照って浮かぶ雲からピンクの糸を紡ぎ
闇にまぎれまいとする雲から紫の糸を紡いだ

そのうちに
君のてつだいをしたい
空を空っぽにするてつだいをしたい
と僕は
あの大雲の糸紡ぎなんて とほうもないこと
は めんどうだから
僕は風をおこし
風は雲を蹴散らし
どこかへとかっさらう
「どうだみたか」と得意気な僕にむけられた
君の目つき がおかしい
曇りつづけた空の下の君には 空っぽの空は
まぶしすぎたのだろうか

ちがうようだ
だって君はさけんだから
「せっかくいい糸が紡げそうだったのに!」

君は君らしくありたいらしく
空は空らしく空っぽがいいといっていたのに
「余計なことをしてごめん」と
口先で 僕ははじめて口先だけで
君に 言いはなった
カラカラカラ……
僕がなくてもつづく 君の糸紡ぎ
から 放たれたすきまで
君をつつむための布を織るために
織り機をこしらえた

君は
糸を紡ぎつづけるために
雲をうみだす術まで編みだしてしまった

僕の風ではふきとばない雲
浮力をうしなった雲はもはやうすよごれ
真綿ではなくなって糸は紡げないから
洪水がすべてをさらう
君をつつむことがかなわなくなっても僕は
そのまっさらな大地にいる
僕はここにいる
君が 雨上がりの虹を見逃さないように


自由詩 くものいと Copyright かとうゆか 2008-01-22 08:09:20
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