ケータイ小説の岸辺で
小川 葉

 
1.小説

彼は読む
本の向こうから
呼ぶ声が聞こえる

空に栞がさしこまれ
訪れる夜も
失うことなく

示された意味を
自らの言葉として
世界に生きる

やがてそれは
共鳴し合い
彼らの声とわかる



2.ケータイ小説

彼女は読む
窓の向こうから
呼ぶ声が聞こえる

心に栞をさしこんで
訪れる夜を
美しく汚す

示された言葉を
自らの意味として
世界に生きる

やがてそれは
通り過ぎていく
彼女らの声にかわる



3.現代

人は読む
暗闇の向こうから
呼ぶ声が聞こえる

希望に栞がさしこまれ
訪れる夜は
終わらない

示された現実を
自らの証として
世界に生きる

やがてそれは
空を覆いつくし
人々の声をなくす



4.未来

私は書く
扉の向こうから
呼ぶ声が聞こえる

夜に栞をさしこんで
訪れる朝の光に
触れてみる

示すべき未来を
自らの命として
世界に生きる

やがてそれは
鮮やかさを増して
私たちに声を与える
 


自由詩 ケータイ小説の岸辺で Copyright 小川 葉 2008-01-20 22:51:57
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