失恋
小川 葉

呼ぶ声がするので
窓を開ける
小さな庭に
いつものように
日が差しこんでいた
午後

僕はこの星でたった一人
光合成をはじめる
息を吸っては
自らの命に
窒息しそうになりながら

庭で植物が生まれる
花を咲かせている
まるで恋人のように愛おしい
懐かしさがあった

窓を閉めて部屋に戻る
妻が立ってる
妻は僕を
はじめて会った
他人のようにに見つめる
僕もまた
この地球上で人類に
はじめて遭遇したような
驚きを隠せないでいる

二人で夕食を食べる
まだ少し
光合成は続いていた
僕を呼んだのはきっと
庭で花を咲かせたあの植物だ
名前は知らない
聞かなかった
窓の向こうの世界で
僕らは確かに恋をしていた

翌朝
僕は恋人に会いに行く
花びらを全て失って
彼女は声に出さずに
さよならを言った
僕もまた
声にならなかった


自由詩 失恋 Copyright 小川 葉 2008-01-20 01:58:07
notebook Home 戻る