peaces
鴫澤初音
1
窓から PEACE
の旗をはためかせて
向かいの坂道をのぞむ
窓からみえる坂道
あれは どこだろう
土曜日の 昼下り
日曜日の 昼下り
わたしは
あの坂道を捜しに行った
犬をつれて
おもったより遠かったのは
坂道が 登りになっているから で
横断歩道を渡りながら
遠くを眺めると
家々のむこうに
わたしの家、
PEACE のフラッグが
色鮮やかにはためいていて わたし、
PEACE!って
さけんだんだ
2
青春18切符で帰郷するとき
大垣駅でひとびとはわれ先に走る
それをひとは 大垣ダッシュ と呼ぶ
東海道本線の接続は
ひどくみじかい
乗り損ねた
スーパーひとしくんは
ダッシュート
3
暴風おじさんは
台風がくるとテレビにあらわれる
60代半ばで
風が吹くとカツラが飛ぶ
暴風おじさんには
娘が二人いて
一人は小学校の先生
もう一人は暴風お姉さんだ
暴風おじさんは言う
暴風の中に立つというのは「道(みち)」なのだと
長女が先生になりたいと告げたとき
「道」を次女に伝授しようと決意したのだと
暴風おじさんは
それを「暴風道」と呼んでいる
きわめれば
暴風なしでカツラを飛ばすことだってできる
(セリフ)
「暴風道をきわめるには
30年はかかるんだ」
暴風おじさんは
ふだんは寝ている
一年に一回
はげしくはたらく
暴風が来ないことには
暴風おじさんの仕事がないのだ
暴風おじさんの妻は
一年に一度
テレビで夫の雄姿をみまもる