踏み切りを待つ
カンチェルスキス




 
 踏み切りを待つおれはばつの悪い思いをしている
 おれは焼酎の入ったスーパーの袋を提げている
 おれの後ろには車の列が何台か続いて
 犯罪者を追跡して喜ぶ公僕のように
 執拗におれの背中をライトで照らしている
 車の中で明滅するちっちゃなテレビのニュース画面
 電車は来るつもりがあるのかないのか
 上りも下りの矢印も赤く点灯している
 踏み切りの棒の黄色と黒を交互におれは目で追っていく
 最後は黒で終わり、おれは踏み切りのを音を聴くのを忘れてた
 踏み切りの棒からぶら下がっている 「しばらくお待ちください」の札
 おれは通過する車輪を見ている おれは待っていた
 車輪が線路を噛んでゆく音は鋭さを増して
 おれの頭の中を通り魔していく
 おれは膝の裏か太ももにかけて筋肉があるのを自分で感じた
 下りの特急列車は通過した 
 おれは今この瞬間にも誰かが殺されてると感じた
 あるいは、殺される対象がおれのような気がした
 踏み切りの向こうの歯医者の受付の女たちが
 仕事終わりで固まっておしゃべりしている 
 飲み屋の薄い窓からカラオケをがなるおっさんの背中が
 うっすら見えている
 握りしめてたはずのスーパーの袋をおれは地面に落としていた
 これから帰って飲もうと思って買った焼酎のパックが
 死んだもののとして袋から飛び出していた
 おれはそれを拾いたくなかった そしておれは拾わなかった
 上りの普通列車がのろのろとおれの前を通り過ぎる
 踏み切りの棒が空まで吊り上り
 執拗に追跡してた車たちもおれを置いて去っていった
 おれは手ぶらで歩き出した
 誰かが吐いた唾を踏んだような気がした
 帰っていくところもあったが
 それがどこなのか思い出せなくなっていた
 おれはなぜ歩いてるのかよくわからなくなった
 電灯も少ない暗がりの下で
 おれは通り魔犯みたいにボサッと突っ立っていた









自由詩 踏み切りを待つ Copyright カンチェルスキス 2008-01-17 19:24:12
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