夜の始まり
川口 掌
黄昏時
電信柱の影に蹲る夜を見つけた
勇気や希望 妬みや嫉み 不安や絶望
そんな物達
を飲み過ぎて気分が悪いらしい
大丈夫?
そう言いながら
背中を擦ってやると
出るわ出るわ 夜が抱えている
何やら得体の知れない物が
次から次へと迸り溢れ出した
寂れた漁村の片隅
少年達が屯する
彼方に海と混ざり合う
雲を目指し駆け抜ける
停滞した時間を飛び越し
輝く憧れと言う都会を目指し
それが父の通った
定めとも知らず
遥か谷間の
窓も破れた廃校の
遺された机の落書き
相合傘のイニシャルに被さる
深く深く刻まれるバツ印
描かれる深遠の
落ちる涙の雫に似た
消えていく思い出
持ち主から離れ
今尚叫び続ける孤独
あの坂を下った所
九月頃から
その親子は住んでいた
悲しみを伝え泣く
赤児の声に母は負ける
繰り返し通う父の背を
二人いつしか忘れ
夜明けを前に遠ざかる
斬り捨てられた月の
上半身に重ねられる
過去と言う景色
吐き出された想いが
次第に辺りに溶けていき
静かに街は暗闇に包まれていく