アンテ


潮が満ちるたび
海水が流れ込んできて
陽の光が無数の欠片になって
裏庭一面に散りばめられる
砂場もスコップも
パンジーの花壇も
つかのま呑み込まれて
潮が引くと
また姿をあらわす
置きっぱなしの自転車も
ブルーベリーの木も
水面から突き出た部分は
なにか特別な意味を与えられた
複雑な仕組みのようで
ゆらゆら光の反射に色を変えながら
神妙にうずくまっている
そういえば見あたらないもの
いつの間にかそこにあるもの
分け隔てなく
形を変えてしまったもの
同じままのもの
くり返し洗われる
真夜中
布団にもぐり込んで
耳をすましていると
海水がたてるかすかな音が
とても
やわらかくて
きっと今頃
折り畳み椅子も物置小屋も
それはそれは
見事な月の光を纏っていることだろう
そうそう
新しい長靴
ずっとしまったままだった
目を閉じる
静かな眠りがおとずれる




自由詩Copyright アンテ 2008-01-17 00:44:33
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。