おだやかな鳩のように
石瀬琳々
おだやかな鳩のように
私はうたたねをする
窓の外は明るい雨
静かにふっとうする時間
やがて雪になる事を予感する
読みかけの本はレイ・ブラッドベリ
夏の草いきれがむっとたちこめる
少年の吐息を追いかけて
それともあの細い足は
駆けていったきり戻って来ない
サーカスがどこからやって来るのか
手紙がどこから届けられるのか
知らなくていい事もある
ただ待ち焦がれるだけで
幸福になれる時間があって
まるで壜詰のお酒が
ふわふわと熟成してゆくように
ちっちゃなちっちゃな雛が
まるまると肥えてゆくように
静かな静かな それはかすかな訪れ
今 少年がふり向いた
はにかむように白い歯を見せて
おだやかな鳩のように
私は従順になる
明日に胸をふくらませながら
やさしい手のひらを待っている
ドアが開くのを待っている