年越し
clef

鍋の中で ふつふつと火山活動している  あんこ 
餡火山弾 や餡火山礫 が噴出し 
ひだり手の甲に 
ぽとり、着地 
あとで、ひりり

星と星が  衝突するより低い確率なんて 
そうそう  ありはしない  

今年の埃を  来年に持ち越さないようにね、と  掃除機で
吸いこんでいく
掃除機の中のごみは  そのまま年を越すので
家にある埃の総量が  変わるわけではないのだけれど

それよりも うっかりすると 
夢やら希望まで吸いこみそうになる、というか 
吸いこんでしまった
テッシュペーパーに  ペン書きの「夢」を見つけたのと
ノズルが呑みこんだのは 殆ど同時で 
夢は  瞬く間に  蛇腹の腸の先
家にあった夢の総量が 変わったとしたら
わたしのせいかもしれない


呼び止めたのに 振り向かなかったから 油断していた
ゆっくり踏んでもいい  バスのステップなのに  急ぎなさいよ、の命令は
動詞で始まる
誰に向けられているのか よく分からない矢印は  自分ではない誰かを
刺そうとする

見回すと わたししかいないので  観念して 身元不明の
主語になった
急ぎなさいよ、さん  に背中を押されて  あわててステップを
踏む  お節の支度をするのだもの

一匹100円のエビは  一匹一匹同じようにも  違うようにも見える
トングでつまんで較べてみると 少し長いのは少し細かったり
少し短いのは少し太かったりして  なかなか一匹を選べない
後ろで覗いている 急ぎなさいよ、さん 
の息
が 首筋にあたって とてもきもい
ひゃっ、と首をすくめた拍子に トングではさんでいたエビが するる、と
逃げてしまった

そんなわけでエビ買えなかったの、と話したら
カニにすればよかったのに、と彼は
笑った


自由詩 年越し Copyright clef 2008-01-16 11:08:39
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