毛糸の花が咲く駅
さち

そこは 小さな駅で
ときどき SLも通る駅で
小さな改札口の前には
電車を待つ人のために
素朴な木のベンチがあります

ベンチと改札口の間は
すぐ近くにある大きな駅に行く人の
通り道にもなってるような
なぜか そんな不思議な造りで
特急列車に乗って東京へ帰る私も
そのベンチの前を通ったのでした

ベンチには
小さな風呂敷包みを横に置いたおばあさんや
地面に届かない足をブラブラさせてる子どもや
観光に訪れたらしき人たちが座っていて

気がつけば
ベンチには 花の形に毛糸で編んだ
小さなマットのようなものが
さり気なく並んでいて
座っている人たちはみな
そのうえに腰を下ろしているのです

その花々は
子どもがクレヨンで描くような素朴な花で
大人が座ればお尻の下に隠れてしまうぐらいの大きさで
けれど
硬い木のベンチの上で
ごく自然に温もりをくれています

この花たちを
誰が ここに咲かせたのでしょう
この優しさを
誰が 微笑みながら編んだのでしょう
私が と
名乗らない優しさは
ほんのひととき 
このベンチに腰を下ろすだけ の人のために
野の花のように景色に溶け込んで
ゆたかに微笑んでいるのです


自由詩 毛糸の花が咲く駅 Copyright さち 2008-01-15 15:56:02
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