死のうと決めたあの日から
麒麟
死のうと決めたあの日
僕は函館の深夜
朝を待つ待合室にいた
電車はもうない
待合室には他に何人か雑魚寝していた
この人たちは
そのナップザックに
人に見られたくない
何かをしまっていたにいたに違いない
朝を待つ
町の
車のタイヤに轢かれた雪は土砂交じりで
人の内臓
嫌な匂いがした
雪が白いのではない
汚いものが消えるから
きっと
僕も消えてしまう、と思った
だからそこにいた
ナップザックがある
あの日の僕は多分
開けて
滴る現実の腐臭を
少しでも抑えたかったのだ
死のうと決めたあの日から
少しづつ
僕の体は匂っていって
今ならきっと
雪に触れたら消えてしまうだろうか
待合室で目をつぶっている
朝を待つ
夜を待つ
また朝を待つ