変遷

日記を、付ける



六月二十三日、昨日から降り続く雨が鬱陶しい
飛沫を弾きながら、打たれるがままの紫陽花を見つめている
我が家の北側の窓の裾、包み込む影は徐々に沈み
零れ落ちた空の色が、花弁のひとつひとつに溢れていた
音が、染み入る


六月二十四日、カーテンを滑らせた向こうは昨日
中指の腹を這わせた窓ガラスを、かたつむりが舐めていた
どんよりとした湿り気が、今の心情を空に彩色する
クレヨンの白は、結局一度も使わなかったこと
ふと、思い出す


六月二十五日、向かいのゴミ置き場のブロック塀の中に
張られた網の上、ぽつんと雨宿りを決め込む姿
じっと見上げていたのか、それともこちらが見下ろしていたのか
分からない、けれども座っていたのは私
確かに、私だった


六月二十六日、またひとつ、歳を重ねて
向かいのゴミ置き場、今日も私が私を装っている
近所のおばさんの気配を察し、途端に飛び退き走り去る背中は
角の、電柱との隙間に吸い込まれた、刹那
響いた、私の視線を鷲掴みにしたまま、今度は何を鷲掴みにして
持ち去った、どこへ



六月二十七日、今日は昨日の出来事を綴る
あれからパジャマのまま駆け出した風の中、もう排気音は遠く
アスファルトに滲み、洗い流され行く涙は
不器用に連なった斑点、羊膜を纏ったガードレールを乗り越えて
辿る、辿る先
小降りになっていた、街並に



橋が 架かっていた





雨、上がる







六月二十八日、梅雨開け宣言の発表された朝
陽射しは初夏の香り、どこまでも深い海の色に浮かぶ
見上げた窓の向こう側、照らされたカーテンも眩しさに目を細めて
振り返れば、熱気に漂う生ゴミの臭い
私は
もう遭うことも無い面影を 足元に
人差し指で なぞった




鳴声が、した・・・?





空耳を、追いかけて、
追いかけて、追いかけて、追いかけて、追いかけて、



日記を、閉じる









空の色を写し取った、スケッチブックの中に/白のクレヨンで/何を/描こうか


自由詩 変遷 Copyright  2004-06-21 20:28:11
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