もう風の中にもない(教えてくれなんて初めから言ってなかった)
ホロウ・シカエルボク




無人駅の廃れたホームに立ち
缶コーラの
残り数滴を啜り
サヨナラのハンカチがたくさん舞うような
一月の空のメランコリーを見ていた

時間は午後
暫定的に午後
そうと知っていたものが
次々と
暗い穴に流れて消えてゆく
ひとつとふたつと一枚二枚
財布の中身を数えて
気まぐれな切符を諦める
少しは利口になった
でも
見ることの出来ない景色が増えた

誰もいない
田舎町の歩道を
凍えながら歩いていると
コートの内側の
はぐれた何かが呻いた
おまえは劇的だ
クソつまらないイギリス映画みたいに
何もかもモノローグみたいだ
物憂い顔をしていなくっちゃ
明日の天気も語れないやつらばっかりさ
スーパー・マーケットの前で
迷子の少女が泣いていた
飴玉をあげると
にっこり笑って店の仲へ消えた
どちらかを忘れたり出来れば
少なくとも堂々巡りは避けられるものだ

小さな町並みを抜けると
各駅停車が駆け抜けた
数年前、あれに乗って
少し離れたところまで行ったんだ
時間が掛かりすぎたけど
いつの間にか忘れられない
一日の中に入っていた
持ち込んだ文庫は早々に終わっちまって
どこかの駅でもう一冊買ったんだっけな
貪欲を手に入れたけりゃ
とことん退屈になってみればいい
他になにも手にするものがなければ
カポーティとだって心底判りあえるさ

昔は綺麗だった河の堤防のベンチには腰を下ろすものはもう誰も無かった
だから俺はそこに座って
夕暮れが始まるまでじっとしていた
上流の方の鉄橋を
六両編成の特急が通り過ぎてゆく
スピード上がれば上がるほど
スタートとゴールだけの関係
途中下車が多すぎるこの俺は
年中誰かを待たせているが
いらいらするのはそいつの勝手で
別段俺の責任ってわけじゃない
自分の気分を尊重するだけさ
急いて見落としたりしたくは無いんでね

どっちへ歩こう
どっちへ帰ろう
昨日は試しもしなかった
そんなところへ帰りたい
ハナから旅じゃないのさ


出所の判らない
パズルのピースひとつ

手に持ってうろうろしてるだけだ




自由詩 もう風の中にもない(教えてくれなんて初めから言ってなかった) Copyright ホロウ・シカエルボク 2008-01-14 22:25:10
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