忘れたものフォーラム
小池房枝
毛を刈るために羊を飼うことを
今、どのくらいの人が思い出せるだろう
つやつや光る糞の転がる野原
綿が種を抱いてはじけるさまを
今、どのくらいの人が知っているだろう
大きな花と土と肥料の匂い
ましてや
虫に食べさせるために桑の葉をつむことを
桑を喰む虫たちのその蠢きを
誰の手が覚えているだろうか
せめて
見知っているだろうか
混沌からひき出されたばかりの糸の頼りなさ
撚り合わせること
フェルトや布に仕上げていくために費やされる時間
言の葉を紡ぐという
詩や歌を織るという
そんな比喩だけが残っている