印税詩人
イオン

先生、ボクは学校を卒業したら
印税を稼げる詩人になりたいんです

そうか、難しい相談だな
いいかい、千円の本が百万部売れて
一億円の印税だ
会社に四十年間勤めると
生涯賃金は、だいたい二億円
それが、まぁまぁの暮らしかな
それと同じ生活水準を保つためには
一生涯で詩集を二百万部売らなくてはいけない

先生、二百万部ですか
うん、ベストセラー詩集二冊でいけますね

おいおい、簡単に言うね
まぁね、そのベストセラーが
若いうちに出ればいいけどね
ほら、電卓を叩いて延べにしてみようか
四十年で二百万部ということは
毎年五万部は売れないと
日々の生活ができないということになるぞ

先生、それじゃベストセラーが出るまで
五万部売れる詩集を
毎年出し続ければいいんですね
まかしておいてください

おい、あのな、詩の五万部というのは
それだけでも大ベストセラーなんだよ
いいか、本というのは五千部売れてトントンで
一万部は売れないと
みんなハッピーにはならない
純文学系の出版社が倒産している現実を
君は知らないのか?

まぁ、なんとなく
先生、でも、詩の雑誌への掲載料とかで
食いつなぐことができませんか?

まぁね、そうだけどね
それじゃ仮に
一つの詩が売れて五千円としようか
一月に三十万円稼ぐには
六十篇の詩を作らなくてはいけない
それも、必ず掲載される詩を毎日二篇だ
しかし、今の日本に詩の雑誌が
十誌もあるだろうか
あったとしても、それで稼げるのは
毎月五万円程度だね

先生、印税生活は無理ということですか?

そうだね、難しいね
現実から逃避したい人ほど
うまい詩が書けてしまうからね
詩で食べていけると思いがちなんだ
でも、詩人という職業は
小説家や作詞家のように
職業名に「家」がつかないだろう
だから家が建つほど儲からない
職業と言われているんだ

先生、そんなことはありませんよ
ユーモアでハッピーな詩なら
売れまくるんじゃないんですか?

んー、そうかもね
じゃぁぜひ
ベストセラー詩集二冊で
二百万部を目指してください

あっ、先生、いまボクを突き放しましたね?

詩で印税生活するなんて
その困難を承知で詩を書く
スリリングな毎日を送りたいんだろう
甘えていないで
這い上がっていきなさい


自由詩 印税詩人 Copyright イオン 2008-01-14 13:26:31
notebook Home