記憶
小川 葉

冷凍庫に
たくさんの思い出が保存されている
消費期限が古いものから解凍して
毎晩妻と二人で食べる

これは去年の夏の海ね
妻がうれしそうに話す
去年の梅雨の日のドライブ
まだ残ってるかな
妻が顔を曇らせる

あの日何があったのか
僕の記憶の部分を
先に食べてしまったので
思い出せない

真夜中にこっそりと
残りの妻の記憶を一口食べた
涙が溢れてきて
もうそれ以上
食べることができなかった


自由詩 記憶 Copyright 小川 葉 2008-01-13 16:52:56
notebook Home 戻る