今日選んだ三つの詩
生田 稔

今日選んだ三つの詩 
 詩の批評をまたしてみようと、1月に作られた詩から3つを選んだ。いずれも心を惹いたという単純な理由からである。しかし文学においては心を惹く好ましいなどということは、はなはだ大切なことである。
 第一に選んだ「銀食器」水無月一也作は何という詩であろうか、批評するにしても何処から手をつけて良いのか見当もつかない。しかしいい詩である。
「自由の代償は
もっとも硬く美しく
ここにあります
今はまだ」という結尾部がやっと意味らしきものを与える。
「地平が 恥じらってゆく」というその一つ前の連も意味ありげで慕わしい。その他の連はそれぞれ美しい調和を保ち、ふとふと心を惹く。
 空気の中に静かに音もなく羽ばたいている鳥がごとく、視線の中の美しいスケッチであった。

「風鈴」はやかわあやね作
風鈴がなるほんの一瞬に意識を横切った思い出。
「いろんなものが沢山あるけれどその中で一番大切だったものはなんだと思う?」とお母さんに問う、この部分が作者の主題であろう。その問いには「かあさんは何も答えはしなかった」と言う。
 ややもすれば幼い感じに取れる表現が続いているが、風鈴のなる一瞬にこめた形而上学それがこの詩の命である。


「next door」風音作 と言う詩に最後に出会った。アパートの隣の住人のことと言う内容は言ってしまえば簡単であるがなかなか考えさせられる詩である。

「ウイスキーを飲むのだろう
ベランダで

氷がカランと鳴る
しばらくすると
煙草の香りが漂う」
と描出されている隣人のうかがい知ることのできる音と煙の観察。そして、
「僕は
彼の顔を
知らない」とこの詩は結んでいる。当然のこと、この詩を読めば、自分とよく似た境遇だと感じる人は多いであろう。私も、2・3回アパート暮らしをしたので興味深くこの詩を読んだ。



散文(批評随筆小説等) 今日選んだ三つの詩 Copyright 生田 稔 2008-01-13 16:09:47
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