イマジネイションの腐海
エチカ

まだ日のあたらない街灯が夜道を照らしている。
ネオンの光を辿って私の電話が鳴った。
シーラカンスからです。
「僕の骨を探してください」
そう言ってシーラカンスは言葉をおいた。
「見つけて僕の骨を腐海に捨ててください。
 僕はもう賞味期限切れです。
 大丈夫、もうすっかり白骨化していますから」

私は赤い暗室の中に埋もれてシーラカンスを探すことにした。
見えない手でリぃるをまわし、24のフィルムを辿って海に降りた。
右脳の発達と共に、タンクは波に酔って、撹拌を3度みたび起こしている。
停止 ...  撹拌  ...  停止
波が押し寄せて私は、シーラカンスを思う。
赤いランプに照らし出される世界の記憶の狭間で、乾いていく記憶の輪郭。
絶滅した白亜紀。
ぶうん、ぶうんと電話の着信音が光る。
「酸の海で僕を照らし出して」
シーラカンスが囁いている。
貧弱な背骨にウキブクロを入れて、ようやく保つ肉の破片。
生きた化石に恋をして、私は酸の海に溶けた。

、すっかり白骨化したシーラカンスが泳いでいた。
「やあ、見つけたね。さあ僕を腐海に連れて行っておくれ」
貧弱なシーラカンスは、カタカタと近寄ってきて私に話かける。
私は手を差し出した時、自分の白骨化に気がついた。
まっしろだ。何もかも。
自分の頭をカタリ、と傾けてシーラカンスにメトールを渡す。
シーラカンスはそれをざぶりと浴びて酸の海から消えた。
黄色い光を浴びなくては。
幸福の入り江に向かうシーラカンス。
赤いランプの中で私は電話をする。

「もしもし、
 光を浴びてください、幸福の。 
 腐海の底で待っています。」

私は印画紙を用意して、自分の手を見つめなおす。
まっかだ。何もかも。
白亜紀に住んだ住人の墓場が、長いリぃるに巻かれてしまっている。
単純な作業を繰り返す記憶のフィルム。
イマジネイションを正常に解除して、30秒後に現れる期限切れの腐海。
電話が鳴って私はつぶやく。


「シーラカンスは死にました。」


私は腐海のエトセトラ。
次の電話を待っています。



自由詩 イマジネイションの腐海 Copyright エチカ 2008-01-12 10:28:18
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