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プテラノドン
およそJ・Cashが、自発的な自己検閲として、夜ごと自宅倉庫内で一触即発の窓ガラスを相手にがなり立てたことは、不眠症患者と、めん鳥との精神的交流を断つための成功例として、科学者たちの間で囁かれている。
「これから先は、大学で学んだ事はまるで役にたたない。請求書の山をのぼりきることは。さかのぼっては、銀行に幾ら預けているかなんておぼえちゃいないけど。」
と言って、Cashは耳の裏に隠していたシガレットを指にはさんだ。(暗闇に一瞬だけあかりがともった)しばしのあいだ、光を生け捕りした気分だったに違いないし、それはつまり、数百億の星空から生まれる精神の連鎖反応の断絶(そもそも帰還することはないが)、その犠牲とひきかえに、超人間的次元エネルギー資源への展望が閃き通った瞬間であった。
「無重力に支配されたそこ、に、丸めた紙ナプキンを沈没させることだ。」ーもちろん、酔っ払い瞼で何を描いたかなんておぼえちゃいないけど。
Cashにとって自由の在り所はテーブルだった。テーブルの上には、収録用のテープ数本と、半分以上が燃えた意味深な楽譜一枚と、灰皿として置かれた歪んだレコード盤。ついでに、床一面にばらまかれたトウモロコシの粒なんかは、めん鳥のための餌だ。もしくは、床そのもがレコードかもしれない。さながら、落とされる一方がCashならば、奏でるもう一方はめん鳥。で、役割分担は明解なものの、それさえ不可抗力。こんな切り札によって自由は丸め込まれる。
ー晩餐会は終わったばっかりで、二、三百メートル向こうのトウモロコシ畑の茂みには若い男女が二人。それと、ヘッドライトにくぎづけのめん鳥が二羽。