足し算ができない弥生ちゃん
青木龍一郎

僕の家の前をくるりくるりと回りながら通り過ぎる人々がいるよ。
だから僕はそいつらに食べかけのピザを投げつけてやるんだ。
一方、その頃クラスのみんなは世界史でフランス革命について学んでいる!

いいこと教えてあげるね!
僕の家のとなりのとなりのとなりのとなりのとなりの家に住んでいる弥生ちゃんは
幼稚園にすら行ってないから、20歳になる今年でも、未だに足し算が分からないんだって!

学校行って、科学の授業を受けようとしてノート開いたら
いきなり「ボツキメラ・スクラップ」というタイトルの詩が書いてあったので
授業中ゲラゲラ笑ってしまった。
そんな僕でも足し算くらいはできる。

その弥生ちゃんが大層な美人で、毎日「足し算を教えてあげる」という
名目で分けの分からない男達が、いっぱい彼女の家に押しかけている。
弥生ちゃんはもはや、町内の風変わりアイドルだ。
男達は弥生タンに「1+1は2の仕組み」と教え、あわよくば弥生ちゃんと良い仲になろうと狙っているのだ。
弥生タンはつたない日本語で「私は大丈夫だから。本当。マジで。お引取りください…」みたいなことを2階の窓から言うんだけど
男達はそれでも家のドアをガンガン叩きまくる。

その光景は僕の家からも見えて、よくその光景を上から眺めて
「この男達も結構、最低の奴らだよなー」とか思ってた。

前に、弥生タンの家の前にビニールシートを敷いて
「弥生チャンノ鍵有リ」という看板を立てて、出鱈目な形の鍵を売りまくった。
ものすごい売れたし(何故か一人で3本買う奴も現れた)
そのお金でCDを買った。
もちろん、その鍵で弥生タンの家に入れるわけがなく、僕は男達に半殺された。

しかし、弥生タンもどうなんだろう。
足し算が分からないってのはマジヤバい。
どうせなら、男達の中で1番好みな奴指名して
足し算も教えてもらって、良い仲になればいいじゃないか。と思った。
弥生タンにも勉強する気がないという問題があるんじゃないか。と思っていた。


でも、近所の本屋で、弥生タンが顔を真っ赤にして恥ずかしそうに
小学1年生の計算ドリルを買っているのを見たとき、僕はその場で号泣した。
バカな弥生タン。
可愛そうな弥生タン。


僕はその場で泣きながら叫んだ。


「みぎてにえんぴつ1本あります!ひだりてにえんぴつ1本あります!
両手を合わせてみてください!何本ありますか!?正解は1本です!!」










次の日、いつもどおり、弥生ちゃんの家には「足し算を教えてあげる」とたくさんの男達が来ていた。


そして、僕の家にも2人「足し算を教えてあげる」と男が来ていた。


散文(批評随筆小説等) 足し算ができない弥生ちゃん Copyright 青木龍一郎 2008-01-10 23:09:59
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