ソクラテスの左側
悠詩

背伸びして掴んだギリシャ文字を
ノートの隅にしたためる
方程式をプログラムした紙飛行機
その切っ先は水銀の鍵ということを
疑いもせず
七時間目の学校
屋上の手すりから放つ

サッカーボールを踏みしだく男の子を越え
ファッション誌につながれた女の子を見下げ
空のはてに浮かぶ扉をあけ
忘れられた新しい世界を見つけることを
疑いもせず

円周率のはてにある柔らかさを
デルタを積み上げた川の冷たさを
知りもせず


見捨ててきた鍵穴は溶けていった
等身大の世界地図を描いた空き地の土管
かみなりの旋律を祈った階段の踊り場
エーテルのあやつる天動説を信じた八月の登校日
溶けていった鍵穴は見捨ててきた


背伸びしたつま先を見捨ててきた


輝かしい迷宮で見失ったわたしと
おなじ地面に立つことを忘れ
夢から醒めるための夢をみていた


自由詩 ソクラテスの左側 Copyright 悠詩 2008-01-10 00:06:13
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