降り来る言葉 XXXV
木立 悟
雪どけ水の流れる静脈
光の片目を両手で包み
生れ落ちた日の鈍色を聴く
にじみのにじみ
花の洞の道
雪の粉の服
笑みの鳥の羽
ひびきがひびきを
見つめにきている
もっとたくさんのちがいを越えて
野と森と原はつながろうとする
波が波へ伝わりゆくさま
越えようとせずに越えてゆくさま
むらさきが轟き
午後のなかの夜
暗がりのなかの輪を照らす
しんと落ちる声がある
ささやきのはざま
染まることなく
波の時間に添う
水の記憶とかたちの記憶
激しく激しく
混じることなく重なりつづけ
浄夜の浄夜
光ながれて
闇をながさぬ光ながれて
ともすれば火照り
空へ飛び去る
風や冬のまちがいを
正そうともせず大人びて
ただ赦しの羽を拒み
おのれの冷気をはばたかせ
幾億も幾兆も跳ぼうとする
その渦もそのまばたきも
無いちから無いちからへと仕えゆく
呑みこんだものを押しやる水の
そう生まれたそのままの泡の色
書き写すのに十分遅い光に骨は鳴り
声なきものの声の血の味
冬のくちびるをたしかめる
明るい色の虫たちが
明るい草と花にのぼり
在るだけの明るさを喰んでいる
霧を越える鳥たちの頭上
生まれ落ちたばかりの一月
狭い骨のあいだの珠の
削られてなお磨り減る芯の
水なき水の光の球面
みどりを集めたみどりをとおり
午後にも夜にもひらかれる手の
指の股からのぞきこむ笑み
階段の階段を上へ上へと
のぼりきったさきからすぐ下の踊り場
少しつかれたやさしげな目で
子は偶然の出会いを見つめた
生まれてから一度も手放したことのない
たましいの重さを受けとめたまま
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