古い写真のこと 思い出のこと 憧れのこと
水町綜助

指でつよく弾いた煙草追い風に乗って

柵の向こうの砂利に落っこちた

よく晴れた日

めずらしく暖かい日差しのなかで

弾かれた煙草ゆらゆらとのぼる煙

柵にもたれ掛かるのは僕

ともだちは後ろを向いて瞼を閉じる

日常の先の方

間違っていなければたぶん一番新しい自分

僕の知っているたくさんのひとたちは今どうしていることだろう

深い街の中で

進み続けているんだろうか

日の当たる丘の上で

机の上に山積みの書類を乗せて

そこに悲しい出来事と思いを混ぜ合わせ処理してるんだろうか

インクは切れてしまうよ

コラージュされる様々な面影

ネガとポジの風景

それを焦がす煙草の匂い

それはそのときすきだった煙草

もういちど


たくさんの断片が遠い灯台の明かりのように瞬間瞬き

電車のプラットフォームは賑わい出す

上りも下りもどちらでも僕には関係ないよ

乗らないからどうか静かにしていて

風が起こって煙りを巻き込んでしまうから

僕は立ち上る遠い煙を見つめているだけなんだから


白い都会の空に浮かぶ銀色のクレーン

いくつもの瓦礫を運び出し

いくつものあたらしい資材を運び込む

強く速く吹き流れる上空の風

それを甲高い笛の音みたいに切りつづけて

そうして出来上がったビルとビルの間

その湿った行き止まりで

吹き貯まる煤けた落ち葉と白いビニール袋とレシート

強い強い風に激しくかき回され舞い上がる

嘘みたいな青空へ

手が届きそうにないものは

河原で老人によって描かれた油絵

そこに浮かぶ

ちいさな鳥みたいな白いビニール袋

そんなふうに乱暴に生きていたい

馬鹿げていて

なんの約束もない

弛緩した安らぎと

綿毛よりも柔らかなこころ

屋根からもぎ取れた風見鶏

地面に落ちた煙草の煙

僕は憧れをもって見つめ続ける


電車は走り去り

友達は次の街へ向かい

煙は空になった

僕はゆっくりと柵から離れ

改札口を昇った



自由詩 古い写真のこと 思い出のこと 憧れのこと Copyright 水町綜助 2008-01-08 14:37:38
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