近頃、正月ムードでいっぱいだけど
プテラノドン

 夕方僕は、今月末で閉店するとかいう寂れたデパートの店内で
母親と一緒に買い物カートを押す女子中学生を見た。
彼女は母親がよそ見をしている隙に、カゴの中へ商品をほうり込んだ。
母親はそれに気づかなかったけれど、彼女が履くスニーカーの靴紐が
ほどけていることには気がついた。
念のため記しておくけれど、彼女が履いていた靴はシグマで、
学校指定のジャージ上下の彼女にはおあつらえ向きってとこか。
そして100%本当ではないけれど、父親はパチンコ屋の景品交換所の前で、
買い物を終えた二人がワンボックスカーに乗って迎えに来るのを待っている。
戦利品であるDVDプレーヤーを小脇に抱えながら。ずっとこのまま二時間だって
待っていられるさと、寒さなんてものともしないその表情は馬鹿に
自信にみなぎっている。そして、あわよくば、今自分が見ている夕焼けを
ビデオに収めておきたいと思っている。もちろん、そんなことをしたって
家族が喜ぶとは思えないけれど。なんて、年甲斐も無く照れくさそうな
ほくそ笑んだ表情をしたかと思えば、今度また勝つことが出来たあかつきには、
ビデオカメラを手に入れることを決意したみたいな。
 今夜僕は、家の近くのパチンコ屋の景品交換所の前で(そんな表情と格好で)
家族の迎えを待つ男の人を見た。僕は彼の後姿を見送った。本来なら、
見送る筋合いなんてこれぽっちも無いけれど、だって、正月だぜ。


自由詩 近頃、正月ムードでいっぱいだけど Copyright プテラノドン 2008-01-06 01:59:53
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