帰郷
Tsu-Yo

足を拾いに行きました
海の匂いのする街でしたが
この街に海はありませんでした
足を拾いに行きました
この街にも海があればいいと
子供の頃から思っていました
父に海をねだったこともありましたが
最近ではめっきり
酒に弱くなったのは父でした
足を拾いに海へ入りました
海は冷たかった気がします
弟を埋めた場所はどこだったでしょうか
とても無口な弟でした
海のことなどもうすっかり思い出せません
海月という言葉を母が忘れたのは
二十世紀の終わり頃でした
この街にはずっと昔から
海などありませんでした
たくさんの海を泳ぎまわるために
足が必要な子供だったのは私でした
足を拾ったその足で
父の墓へと向かいました
苔生した墓石に酒をかけると
とても懐かしい海の匂いがしました
この街に海はありませんでした


自由詩 帰郷 Copyright Tsu-Yo 2008-01-04 00:44:03
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