「近付く」
菊尾

階段を上る足音は
後からわたしを追い越して行った
想像以上の現実感
ある日、空に見た一つのひずみ
わたしはそこへ近付こうと
高みを探した

見下ろせば
オウトツの街、色彩豊かな広場
馴染むことのできないわたしは
どこに居たって薄い影を引きずって
ねぇ
何色を羽織っても何色にもなれないね

甘さ控えめの妄想で暮らしたのは
現実から遠ざからないようにした唯一の手段
不器用すぎて適応の仕方を知らないだけ
染まらず染められず誰も見えなくなっただけ


それはいつもの日常だった
何も変わらない毎日の一部だった
それがいつの間に?
気付けば語尾に“はず”が付いていた


あなたが外した指輪の音だけが響いてて
今でも小さなテーブルの上には残ったままで
夕方の角度とか踏んだ時に軋む床のこととか
空っぽになったわたしは座りながら
倒れて、倒れて、倒れながら見ていたよ
ゆっくりとドアが閉まっていくその瞬間を
閉ざされていくわたし達の関係を


澄んだ空気
ひずみへ手を伸ばせば生まれ変われる?
あれはここより外のもの
だからわたしは手を伸ばす
あなたが望んだわたし
あなたが愛したわたしへ

足を離す
羽根が生えている気がした


自由詩 「近付く」 Copyright 菊尾 2008-01-01 21:25:17
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