ひとつひとり
石畑由紀子
十六歳だった
終わったあと
ひとつになったんだね、と囁かれ
雑誌の読みすぎだとおもった
このベッドの下に隠れてるなにかかしら、とか
制服がしわしわになっちゃった、とか
私ははじめてで
彼とは付きあっていたけれど
そんなことをぼんやり考えることもできるような
状態でもあったわけで
ひとつになったんだね
この言葉を最初に考えたひとは
なんにも知らないひとだ
想うより想われたほうがしあわせよ、とあの日
私を祝ったひとも
なんにも知らないひとだ
それとも
重ねすぎて
目をふせる
ほかなかったのか
*
国際中継で
片足ずつを分けあって
ベトちゃんとドクちゃんが引き離されたとき
私は涙があふれた
ひとりだね
これからはひとり同士だね
恋をするたびに
私は彼じゃなくて
どうしても
誰も私になれなくて
くもった窓の内と、外
ふりつもる痛みを
あの日ドクちゃんは片足で飛び越えた
自分の一部 じゃなくなった
ベトちゃんの手をとって
*
私たちが皮膚ごしに灯をともしていたころ
ベトちゃんは静かに灰になった
ドクちゃんは大声でさびしい、さびしいと号泣したそうだ
本当に
ひとりになってしまったね
送りだした足は
もう片方の記憶は
どんなふうに残っていますか
*
ひとつになったんだね
卒業前に別れたあと
その彼はトーキョーへ行ってしまい
しばらく同窓会もないので
もう十年以上会っていない
最後に会ったときはたしか互いに笑ったはずだ
こどもだったよね、でも
こどもなりに、だったよね、と
そんな昔ばなし
私たちが
出会うずっとまえの
*
こどもなりに、だった私は
おとなと呼ばれる歳になって今
それでもなお
重ねても目をふせることはできずにいる
それでも私たちが互いの
その片足であったならどうだったろう
窓を越え、なにもかもに
気づいて
さびしいときは
大声で泣ける
そんなことを浮かべては
ちいさく笑う
もしもはない
もしもは
ない
私たちは
ひとりだ
かなしいほど
遠ざかる
そのいのちが
かなしいほど
愛しくて
おかしい