バロウズ
石畑由紀子
むせかえる緑
森の深みで
一本の幹を背にすらりと立つ
わたしの頭の上にはもぎたての林檎
正面、幾重もの木々ごしに
とらえようとする鋭い矢尻が
抗う弓をキリキリと押しひらいてゆく、あなたの
引き締まった腕と
みるみる青白くなってゆく頰
やまいのように透きとおり
唇をふるわせ一心不乱にわたしを見つめている
こんなにも美しいあなたを
わたしは見たことがない
耳鳴りが走りやがて止み時をすいこむ立ちどまり息をのむ、
もしも
永遠というものがあるとしたら
きっと
こんな一瞬のこと
いいのよバロウズ
わたしたちが選んだのはちいさな、ちいさな林檎だった
放つ瞬間に
あなたが
どちらを狙ったのかは、だからもう
どうでもいいこと
林檎は大地に打たれて砕け
あなたのわたしは死んでしまった
ここからは
あなた一人でね
みずみずしい破片を踏みしめ
穴の空いた顔で立ちあがる
一瞬という
残りの永遠を
ありがとう
さようなら
わたしのバロウズ