「rainy」
菊尾

そして雨が続いた

近付いて耳際で一つの嘘をついて
傘が手離せなくなっていたその手から
力が抜けていくのを見た

瞼を擦って世界を揺らす
誰かになりたいって
誰かも分からずに繰り返し呟く
「まだだから」
理由も不鮮明のまま夜を越えられない

それは未完成な夢のこと
眠りの中だけにある深淵
それに吸い込まれる水滴群
君は観察を続ける
時間が許される限り
何かを見届けるように


湿った指先は震えていて
思い出した事に驚いていた
雨は始まりであり季節を変えていく
見捨てたかったあの日の続きが
その眼の先に再生されているのだろう


握り締める柄
雫が肩を色濃く染めていく
降り止まない音
止まっていく秒針



雨が降り始めた
僕はその耳に近付く
ひとつ囁く為に


自由詩 「rainy」 Copyright 菊尾 2007-12-29 02:51:26
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