「 Help! 」
服部 剛
じゃじゃりり〜ん
紅茶が美味しい原宿のCafeで
初老の紳士が羽織ったジャケットから
小銭が床に散らばった
赤いチェックのワンピース
栗毛に薔薇のリボンを結ぶ
人形みたいな女の子は
カウンターから飛び出し
互いは頭を垂らしあい
屈んで無数の小銭を拾う
じゃじゃりり〜ん
白壁の凹みに納まった
スピーカーから流れ始める
「Help!」のイントロ
スピーカー下の凹みに置かれた
小さい額のなかから
40年前の東京に
やって来たビートルズは
4人揃って
モノクロームの微笑を浮かべる
♪ Please Please Help Me ♪
店内のテーブルを埋めた
それぞれの客の胸中に
オブラートに包んだ
「Help!」の文字は
それぞれのティーカップから昇る
白い湯気のように
筆記体に崩れて溶けた