おまあじゅ
THANDER BIRD

おおはばきん
新しい言葉を一つ作ると
世界から一つ言葉が失われていく音を聞いた
それはながいながい車の衝突音に近かった


下半身が老人ホームにいつも向いている青年
後ろを見たければ目を180度回転させればいいんです、と無邪気に笑う精神病患者のコータ君
頭のてっぺんのドーナツ化現象「高い!高い!こんなとこにゃあいられねえ!」


おおはばきん
新しい言葉を作り出すと
それは跳ねだし飛び立った
その日から私は
一匹だけの、たくさんの言葉のためだけに存在する、悲しい鬼になった


三つ目の目を書く男
コウノトリが運んでくる赤ん坊はいつも唇が青いことを知っている女
背中に、誰かの人差し指がいつもくっついている男


言葉はいつも真っ白だった だから
無視されている言葉をかわいそうに思って
えんぴつは黒く塗ってあげた
ただそれだけのことだった


人間と呼ばれる「救世主」が
「トイレットペーパーの穴越しに
新しい世界が見える」

私の鼻の穴の中を覗きながら言った


そして何かが、何かが不意に
私の手を動かした、
「music is water
water is universe」


えんぴつよ、これは逃げ出した言葉の一つか?
そう聞くと、えんぴつは無言のまま家に帰っていった
翌日朝刊で首吊り自殺をしていたことが載っていた だが、
新聞を隅から隅までくまなく探してみても
逃げ出した言葉に関する情報だけは全く、無い



逃げ出した言葉はいったいどこにいる?



おおはばきん
新しい言葉を作れば作っただけ、
逃げ出した言葉たちはきっと
それぞれの家に帰っていったのだろう
私は公園のベンチに腰掛けながら
えんぴつに黒く塗られる前の、帰るべき家のことをずっと思い出そうとしている。


自由詩 おまあじゅ Copyright THANDER BIRD 2007-12-28 03:35:09
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