仮設の壁
喫煙変拍子


某月某日

耳を割るような金属音で覚める
目は閉じたまま
ヨタつく足でカーテンの前、起立

生地を掴んでそれを最高速で裂いたら
同時に目を開けたら
流れ込むはずの世界がどこにもなかった

ならいいのに


石灰の階段の上では排泄物が腐り
アゲハ蝶がその周辺を満面の笑みで飛ぶ
淡い自慰模様の箱に詰められた人間は
毎朝一律のリズムで揺れるしかない
諦めた私は今日も
華奢な椅子に足首を乗せて
ワイシャツの口紅を削ぎ落としてばかりいる



翌日

月の上昇に合わせて 覚める

生地を掴んでそれを最高速で裂いたら
同時に目を開けたら
流れ込むはずの世界は
少し薄かった

温い酒と
褪せた音楽に泥酔した私は
麒麟のシールが貼り付いた便器に腰を落とし
煙を吐き
タールを飲む
小肥りの紐を睨みながら
時折、蛍光灯に翳すと
数秒間
ハリボテの裏が露になる



翌々日

月の降下に合わせて 覚ます

生地、最高速、裂いた、
同時、目を開、流れ込、
はずの世界は
ほとんど焦げていた

剥き出しの鉄骨に囲まれ
泥塗れた電動工具が散らばるベニヤ板の上で
私も散らばり
沈黙に溶けていく哺乳類の枯れた鳴き声が
眩暈を誘い出すBGMとなった、次に
揺れる鼓膜が更にそれを不協和音に変え
角膜の上では複数の月が腰で踊っている

それは昨日見た
ハリボテの殺風景に同じ



翌々翌日

耳を割るような金属音で覚める
目は閉じたまま
ヨタつく足でカーテンの前、起立

生地を掴んでそれを最高速で裂いたら
同時に目を開けたら

太陽はまだある




自由詩 仮設の壁 Copyright 喫煙変拍子 2004-06-19 00:25:28
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