氷姫
玲瓏
こおりは笑顔を失くしていた。
あなたが消えてから、
見えるものすべて色あせ、
聞こえるものすべて通り過ぎてゆく。
こおりは笑顔を失っても美しく、たくさんのひとが彼女に魅せられた。
しかし、触れようとも、触れようとも、ただ冷たいだけなので、次第にだれも近づかなくなった。
こおりは温かさも失い、固まってうごけなくなった。
それを見兼ねた小鳥は、こおりの肩にとまり呟いた。
「てめぇばかりが不幸と嘆いて、悲劇のヒロイン気取って、迷惑まきちらして自己満足かい?」
「そうなのかもしれない」
「それなら、温泉に行ってみなさい」
「うごけなくて」
「じゃあ、アタイが連れて行ってあげよう」
小鳥はこおりを抱えて空を飛び、固まって青くなったこおりを小鳥は温泉めがけて放りなげた。
ざぶん、とこおりが湯につかると冷えたカラダはゆっくり溶けて温泉とこおりはひとつになった。
お湯になったこおりが空を見上げてみると、たくさんの星たちが闇のなかで輝いていた。
「おじょうちゃん、溶けちゃいましたね」
「うん。とけちゃった」
「まあ、街にもどればまた固まりますよ」
「そうね、生きるって冷たいものね」
「その時は、また溶けにくればいいさ」
こおりはコクンとうなづいて、しばらく空の星を眺めていた。