サイクロプスが棲むところ
本群 マコト
夜、月を見上げていると、誰かがのぞいていた。
ほんの少しの時間だけ、のぞいていたようだ。
僕に気付いて隠れたのか、僕は気配をうかがっていたけれど、それきり何も見えなかった。
月はながめればながめるほど、不思議な存在で、自分で光っているようでもあったし、光をもらしているようでもあった。
月は毎日定期便のように、空を昇り降りしていると思っていたけれど、今日は違うように思えた。
暗い空に穴をあけて、誰かがのぞいている。
外はどんなに明るいのだろう。
お昼に真っ暗な東京ドームにぽっかり穴をあけたら、月みたいになるだろうか。
ひとさし指とおや指で、月の大きさをはかってみた。
指を丸くして月を囲むと、とても小さく見える。
囲んだ指を僕の目にあてると、まわりの景色が違って見えた。
のぞくように指から見ると、ひとつひとつ色んなものが、はっきり見えるようだった。