ひいばあちゃん
明楽

まぁやぁ 赤ちゃんて
こんな ちぃせぇもんじゃったけぇなぁ
玄孫の姿を
光の乏しくなった瞳でとらえ
しわだけの顔になって
ひいばあちゃんは言った
そして もう一度
同じ言葉を繰り返してから
大事に育てんせぇ
と 言った

明治三十三年
玄孫より百年以上も前に
ひいばあちゃんは産声をあげた
八人の子を産んで
誰も戦争に行かなかった
だけど 三人を亡くした
家族の手のひらを満たす
命の滴は豊かだったけれど
そこから零れ落ちる滴も多い時代だった

そして今
一昔前ならば零れ落ちていた滴が
ずいぶんとすくえるようになりました
産む子がただ一人であっても
残すことが出来るのです
かく言うあなたの玄孫も
一昔前ならば零れ落ちていた滴でした

大事に育てんせぇ
この時代に子を育てるわたしに
あなたのこの一言は
どんな石碑よりも重く
誰の格言よりも深い
真っ直ぐな一打ちでした

ひいばあちゃん
ありがとう

ひいばあちゃん



2006.8.31


自由詩 ひいばあちゃん Copyright 明楽 2007-12-27 07:42:00
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