ひいばあちゃん
明楽
まぁやぁ 赤ちゃんて
こんな ちぃせぇもんじゃったけぇなぁ
玄孫の姿を
光の乏しくなった瞳でとらえ
しわだけの顔になって
ひいばあちゃんは言った
そして もう一度
同じ言葉を繰り返してから
大事に育てんせぇ
と 言った
明治三十三年
玄孫より百年以上も前に
ひいばあちゃんは産声をあげた
八人の子を産んで
誰も戦争に行かなかった
だけど 三人を亡くした
家族の手のひらを満たす
命の滴は豊かだったけれど
そこから零れ落ちる滴も多い時代だった
そして今
一昔前ならば零れ落ちていた滴が
ずいぶんとすくえるようになりました
産む子がただ一人であっても
残すことが出来るのです
かく言うあなたの玄孫も
一昔前ならば零れ落ちていた滴でした
大事に育てんせぇ
この時代に子を育てるわたしに
あなたのこの一言は
どんな石碑よりも重く
誰の格言よりも深い
真っ直ぐな一打ちでした
ひいばあちゃん
ありがとう
ひいばあちゃん
2006.8.31