旅客船
小川 葉

水道の蛇口から
船の汽笛が聞こえる
船に乗った
親子の会話が聞こえる

いつになったら
港に着くの
少女の声がする
父は黙して
母はかもめを指差して
話をそらした

遠い昔
行方不明になった
旅客船
僕が少年の頃
好きだった
あの少女は
ついに戻らなかった

コップに水を汲むと
小さな旅客船が
たよりなく浮かんでいる
少女は僕を指差して
港が見えるわ
と言った

あの時
彼女には
僕が見えていたのだ
僕の祈りが伝わっていたのだ

それでもなすすべなく
僕はコップに浮かぶ旅客船を見つめて
祈るしかなかったのだ


自由詩 旅客船 Copyright 小川 葉 2007-12-24 17:32:46
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