旅客船
小川 葉
水道の蛇口から
船の汽笛が聞こえる
船に乗った
親子の会話が聞こえる
いつになったら
港に着くの
少女の声がする
父は黙して
母はかもめを指差して
話をそらした
遠い昔
行方不明になった
旅客船
僕が少年の頃
好きだった
あの少女は
ついに戻らなかった
コップに水を汲むと
小さな旅客船が
たよりなく浮かんでいる
少女は僕を指差して
港が見えるわ
と言った
あの時
彼女には
僕が見えていたのだ
僕の祈りが伝わっていたのだ
それでもなすすべなく
僕はコップに浮かぶ旅客船を見つめて
祈るしかなかったのだ