雨
佐藤伊織
自転車で宿舎に帰る道は
いつも決まって霧の中だった
不意にあらわれる人を避けると
濡れた草が足を撫でた。
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やがて記憶の中には
雨が降ってくる
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雨は宿舎に降り
区切られた部屋に降り
僕の生き方
を優しく遮っていく
眠りの中で そっと
何もないところで
僕は
小さく
小さく
*
雨があがると
時は再び動き出す
断絶した壁の向こう側から
僕の知らない
世界として
*
地面は乾いていく
何も遺しはしないから
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