収集
佐々木妖精

黒いジーンズに黒いセーター
黒いロングコートと黒手袋
街灯を避け夜に浸ると
アスファルトが
願いで輝いているのが分かる

ウルトラマンになりたい
今年こそ東大に合格したい
宝くじで1等当たりますように
有馬でウオッカが来ますように
三十路前に結婚したい
クリスマスまでに彼女ほしい
働きたくない
まだ死にたくない
もう死にたい

触れると流れ込んでくる
誰かの願い

どれが叶った願いで
どれが叶わなかった願いなのかは
はっきりと分かる
叶わなかった願いのきらめきは
くたびれていない

叶った願いには
おめでとうとさようならを言い

ウルトラマンのお面をかぶり
ビリビリに破かれた宝くじを拾い集め
有馬でスッた馬券は
まだ熱かったので
三十路を迎えた女性の
婚姻届けでくるみ
元ニートのVAIOへ挟み
脇に抱え
余った方の手で
青白い腕をなぞり
血のしたたるガムをかみ締め
帰る



悲しくも美しい願い
暗い部屋の中で
それは
タイヤだとか
靴の跡だとか
犬のうんこの陰で
死期を悟った蛍のように
所在無く発光しているので
綿棒で掃除し
ストーブで暖め
飾り付け
悪気がないのは分かっているけど、たまんないよね
なんてツリーと語らい
名刺代わりに
自分の願いを1つ披露しては
はしゃぎ疲れて眠り
希望だけは奪わないでくれ
という進行中の願いを
誤って蹴飛ばしてしまったらしく
朝日と共に拾い上げ
強く握り締める



核シェルターに
1つずつ
願いを寝かせ
お疲れ様と
挨拶して扉をしめる時

少しずつでいいから
報われた願いが増えてほしい
という願いと

キレイな物が減るのはさみしい
という想いが
同時に起こるので

行ってきますまでの約15分を
立ち尽くすことに費やしてしまう


自由詩 収集 Copyright 佐々木妖精 2007-12-24 13:21:15
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