カモノハシのパンセ8
佐々宝砂

型は確かに反射的だが、型を反射にするまでには鍛錬が必要だ。
だから野球選手は素振りをする。

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ものを書くと自分の知らない場所で自分が動きはじめる。

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誰一人救われない?
違う。
私は救われている。

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本当にヒドイ映画を観ると、あんなにヒドイ映画が存在してもいいのね、と思えて、なんだ生きていてもいいのねと思ったりするから不思議だ。

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身勝手でぼろぼろで壊れていて、
意味なんか明後日の方向にぶっとばしてる、
比喩だか比喩じゃないんだかすら不明な詩を読みたい。 

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あたしゃ器用に立ち回りたい。
もちろん器用じゃないけれど。

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私は過去の私を抹殺しないで残しておく。
それは過去の私に過ぎないけれど。 

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たとえば私には嫉妬がわからない。嫉妬するような状況が未経験かというと、そうでもない。でもそういうとき私が感じるのは疎外感で、軽いやきもちですらなかった。嫉妬に怒り狂う男女を目の前でみた。全然理解できなかった。どうもこれは欠損のような気がするのだ。憎しみも嫉妬もわからないあんたには、愛もわかりゃしない、と氷水をぶっかけられて罵られたこともあったが、困ったなあと思うだけだった。普通ならはっきり憎しみを抱いてもおかしくない状況に陥ったこともあるが、これは大昔なので自分にもよくわからない。もしかすると私はそのとき憎しみという感情を抹殺したのかもしれない。肉親と恋人を亡くしたことはある。そのときはきちんと悲しかったので、悲しみは欠損していないらしい。ニュース見てはよく怒るので、怒りはちゃんとある。怒りと悲しみは理解できるが、憎しみがわからない。復讐したい気持も理解できない。私どこかに欠損があると思う。

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問題が発生したら、怒ったり憎んだりしてる場合じゃなくて、解決策を模索して原因を追求して再発を防止すべきだよね。当たり前?うん、当たり前だと思う。

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動物はたぶん、不必要な殺戮をしない。食うため、子孫を残すため、テリトリー争い、そういう殺戮は必要な殺戮だ。犯人憎しで殺したいと思うのは「人間的」なこととは思うけど、それって、全然「生きるため」じゃない。動物的じゃない。むしろおっとろしいくらい「人間的」じゃないの?

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いかなる理由であれ、現在の国際的一般規範からみて「人間」とみなされる存在を、「人間」扱いしない「人間」は山ほどいる。「人を人と思わない」の基準はひとによってそれこそいろいろあるだろうけど、人を虐待しても、殺しても、戦争起こしても、公害ばらまいても、悪口雑言ばらまいても、世の中に多大な迷惑かけまくっても、死刑にされても死刑にしても、人間は人間であって、それ以外の何かではないと思う。というか死刑だの戦争だのってすんげえ「人間」らしい行動だよな。 

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人を人と思わなくても人は人。

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私は幸運じゃないが、幸福になる才能ならある。

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妄想には実現できるものとできないものがあって、たとえば天使みたいに空を飛ぶのはいまのところ無理だ(遠い未来には可能かもしれんが)。一般市民の誰かを殺してその肉を食うことは、可能だ。できる。がんばれば、できる。もちろん、がんばらない方がよろしい。できることをやらないでいるのがまともでいる道だ。

天使みたいに飛ぶ妄想を口にして、研究もせず努力もせず、そこらのビルから飛び降りたらただのアブナイ奴だ。しかし、必死に遺伝学だのサイボーグ工学だの研究して、なんでできてるかわからないがとにかく飛べる翼を造って背につけて、それで空を飛んだら、そいつは英雄だ。

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貧しい国のこどもで賢そうなやつは、異口同音に「医者になりたい」という。

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人は強い。強くてずるい。強い爪がないからナイフを作った。肌がもろいから服をまとった。翼もないくせに飛びたがりそして実際飛んでしまった。人は強くてずるい。私は今日もかつて生き物であった死骸を食う。 

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遊び暮らして、非国民と呼ばれて、唾棄すべき恥ずべき存在とか言われて、そいで、製造業やめて、水商売に転職して、ふらふらしてたい。私はもっとろくでなしにならなくちゃいけない。

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あるときあるバカにそそのかされて、私は悪人にならなきゃならないと決意した。それも極悪人の大嘘つきに、だ。決意した、というより、理解した。あるいは、それしかないとおもった。私は大バカになれる。たぶんその程度の才能はある。でも極悪人になるのはしんどいな、せいぜい性格悪い逆説好きになれる程度だ。 

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誤用を使い通すなら、理論武装しろ。
あるいは誤用で私を感動させろ。
そのとき誤用は誤用でなくなる。

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精神論で鬱病が治るなら、優しさでメシが食えるなら、そして無知ゆえであればすべての失敗が許されるなら、カミサマ、あなたは不要ですね。さあみんなで魔道に落ちようぜ!精神をキッと保っていられるならカラダなんかくれてやる!微笑んで親切にすれば生活できるなら頬が筋肉痛になるほど微笑む!そうさ私は大馬鹿だからさ、だから、だから、何をしても許される!

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悩んでいるヒトに私が言えることは、シャワー浴びて顔を洗って歯を磨いて新しい服を買ってきて着替えろ、って、そんな程度のことなのだとおもう。

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無駄ながんばりは無意味以下。方向性が間違っている精神論はほとんど犯罪。がんばってヒトを殺すこともできるしぃ。精神論をふりかざして戦争を起こすこともできるわけでさ。 

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詩ってそんなにたいしたものなのか。詩に、人生だの命だの存在意味だの重いものを背負わせると、詩も疲れちゃうんじゃないか。こっちにおいで、詩。こっちの水は甘いかどうか知らないけど、苦くはないよ。重くもないよ。いっしょにあそぼ。 

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どう考えてもかつてのやりかたじゃ持続可能な発展はできない。
衰退ばんざい。
日本も大人になりつつあるのさ。 

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とっても不遜な言い方だけど、私が全力を尽くしたら、かなり期待に添えるような・・・ははは、でも、やらない。できても、やらない。私は、否、私が目指してるのは、たかが三流怪奇詩人なんだから。



散文(批評随筆小説等) カモノハシのパンセ8 Copyright 佐々宝砂 2007-12-24 02:34:26
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