『和氏の壁』の逸話のように
松本 卓也

見えないものなど何も無いと
空に嘯いてみたとして
足元に転がる雑多なガラクタの中
光る石ころが拾えないならば
いかほどに意味があるのだろう

振りかざす善意に埋もれた慟哭
今日も薄っぺらな正義の名の下に
名も無き人々の涙が消えていく

空洞に埋め込まれたガラス玉には
誰かに与えられた権威と
媚びに塗れた名声だけが
美しく彩っているのだろうか

暖かな冬空の下
路上の片隅に咲く
小さな白い花びら

ビルと民家の隙間で
合った目を逸らすことなく
微かに鳴いてみせる野良猫

中空に舞う二羽の鷹
繰り広げる縄張り争い
悠然と漁夫の利を狙う烏

見えない者には決して見えない
与えられた言葉からだけしか
己すら語れないのならば
百万の文言を尽くしても
形など創れるものだろうか

路傍に転がる小石を拾い
刻まれた言葉を詠み上げれば
偉い学者に付けられた名前も
収集家が積み上げる札束も
何の意味がない事を知るだろう

無造作に掴み取り握り締め
刻み込み放り投げまた拾う
繰り返し積み重ねられた質量に
お墨付きなど必要ない

纏わりつく電飾の横で
静かに放つ輝きが
君等の目には映るだろうか


自由詩 『和氏の壁』の逸話のように Copyright 松本 卓也 2007-12-24 00:03:03
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