むかし、むかし、
三奈
「そんなこと、あったっけ?」
嫌ね、忘れてしまうなんて
時の流れに負けてしまったかしら?
それとも新しいデータに支配されて
過去のデータはデリートされた?
嫌、嫌よ、そんなの
「ちょっとまってて!」
証拠の写真を見せようと、
引き出しの中をひっくりかえした。
あれ、ない。ない。
どこにしまったっけ?
どうやら私の脳でも
記憶のデリートは起こっているようだ
「おもい、だせないね」
君が覚えていなくても
私は覚えているから
写真はないけど、証拠はないけど
確かにあった、あの海
覚えているから
あの言葉、覚えているから
時の流れなんかに負けずに
新しいデータなんかに負けずに
よぼよぼのお婆ちゃんになっても
だから
「おもいだしたくなったら、ここにおいで」
遠い遠い昔話を
聞かせてあげる