鏡のなかのタンゴ(Tango en espejo)
安部行人

下る――
ある昼と夜に、ありふれた昼と夜に、
長く古い階段を、地下の駅へと、


下る――
ひび割れた鏡の壁、踊り場の剥がれた床、
片方だけ壊れた照明、唸る空調のなかを


送風管から軋み出てくる啜り泣きとわめく声、
鳥の羽音、軍靴の響き、なにかの砕ける音、
割れた鏡のなかから聞こえてくるのは――タンゴ!


顔の見えない男が
鏡のなかで手招きする


下る――
薄暗い踊り場からさらに地の底へ
世界の果てに向かう
聞いたこともない名前の駅まで


自由詩 鏡のなかのタンゴ(Tango en espejo) Copyright 安部行人 2004-06-17 23:59:18
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