恋愛死
狩心

リズムに乗れるほど
人生は軽くない 軽くしてくれる?
拒食症になった君がそう言って笑うから
欲望塗れの俺が過食症になってあげよう 全部ぶっ殺してやる
声が出ないという君の為に僕は発声練習を始めた 僕の咽喉と君の咽喉は繋がってる!?
キスした瞬間から全てが壊れた 新しい世界が生まれた 広がった細胞が 細胞が!だよ
声が出ないという君はひたすらメモを書いて伝える僕に俺に君に 読める?
僕が自分の言葉を喋ろうものなら 君を破壊してしまうので俺は
「わかった」とだけ言う事にしている 今日は今日は 今は それがいい
震えが止まらないんだ 僕は立派な人間なんかじゃないんですよ
僕は面白くない人間なんですよ 君に会えてよかった

歩道橋の上
爽やかにきらめく朝日を浴びて二人だ
歩道橋の下
忙しなく踏み切りを渡る大勢の人間だ
気付かれないようにキスをしよう
誰にも気付かれないように死んじゃえばいいんだ二人で細胞分裂して三人だ
電車が来たよ 君を守りたい
なぜそう思うの? 運命だからだ

手を繋ぐのはいつも僕の方からだった
でも今日は君の方からそっと繋いできた それが夕陽さ
皮膚の地平線から見えた夜 君の夜を全部食べてしまいたい俺は 過食症だから
ばりばりむしゃむしゃどうだい? 何かリズムが聞こえてきたよ
俺が真空を噛み砕く音は 君の声にそっくりだ

人込みの中 君は震えている 熱いも寒いも分からなくなって
起きる全てが突然だった君は 自らを「震度5の地震」と名付け
町を破壊しない程度にと 地獄の黙示録に書き添えた
−ヴァンパイアだったら、人間の血を吸って、永遠に生きていけるんだって
−でも人間になりたいヴァンパイアは、人間の血を吸う事を拒み続けるんだって
−そしてガリガリに痩せ細って、天使みたいにビルから飛び降りるって聞いたんだ
−羽は生えているの?
−うん、肋骨が変形して背中から突き出て、それが羽になるんだって

肋骨が見えるほど痩せている君を 俺が抱き締めたら壊してしまうだろうか
君の体に肉が付く事が俺の幸せだ ほら、安心して暮れていくかな この腕の中で夕陽が やさしく
君の呪縛霊が僕に乗り移った時に俺は 四人目の人間が現れる事を確信していた動物園で
太陽があたたかくて二人で眠りそうだった ほら、時間が止まってクススと笑っているよ
冬の寒空の下
ねぇ、また会えるかなぁ
離れ離れになっちゃって
ねぇ
君の言葉を僕の肺に焼き付けてくれ 離れ離れになればなるほど
僕が呼吸困難に陥るように 口と口とを合わせて 息を吹き込んでおくれ
言葉にならない君が魂で 春の吐息で 僕の心をノックして 震えて 俺は
何度も言おう、これは運命なんだ
−これは運命なんだ
−俺の心臓を君に捧げたい今朝 この胸を切り開いて 今までの愚行も全て吐き出した
−流れよ、止まるな、お前が流れ続ける限り俺は、この赤い血で移動する、ヴァンパイアになる
心臓の血管が枝分かれをし始める 虚空を突き刺すように 手を伸ばすように

どこの宗教にも属さない教会の中で
君はこの強い心臓の鼓動に耳を澄ますと安心すると言って眠る
四人目が生まれる ああ、天使とヴァンパイアの混血種だ その産声の中に
−僕は居ない方がいいのかな?
−ううん、居てくれた方がいい。
そっと二人で山彦の真似をする。ここは都会のど真ん中。ヴァンパイアの住む町。
毛細血管の山。枯れた湖に。涙が戻る日。僕は君に出会って。俺は君を守りたいと思った。


自由詩 恋愛死 Copyright 狩心 2007-12-21 18:30:27
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