喫煙者
吉田ぐんじょう


雑踏で喫煙をしていると
衛生的な感じの服を着て
酸素マスクを付けた人たちが
群れを成してやって来て
あなたはどうして煙草を吸うのか
と言う
くちごもっていると
健康の為に今すぐにやめるべきである
それに煙草には副流煙というものがあり
それは傍らの人にも害を及ぼすものである
わたしたちがこのようにマスクをしているのは
外気に混じった副流煙で
健康を害される可能性があるからで
まったくもって喫煙者と云う人種は
迷惑千万な生き物であり
罪のない非喫煙者たちは外を歩く事も出来ない
とくどくど叱り始めた
わたしは聞いているうちに
なんだか悲しくなってしまって
指に挟んだ煙草から
灰がぽろぽろ落ちるのを止める事も出来ないでいる

それにほら
そうして町を汚すのも
あなたがた喫煙者である
今すぐひろえ
いますぐひろえ
とあんまりだ
そんなのあんまりひどい
一言も反論できないまま
ポッケットから携帯灰皿を取り出して
自分の吸殻と
それと他の人の吸殻も拾って
手で灰も集めて
地面をきれいにした

酸素マスクをつけた人たちの群れの中には
青白い小さな子供もいて

そんな風に子供を青白くしたのも
わたしのような喫煙者である
とその人たちは言いたいのだろう
食品添加物より
ファーストフードより
車の排気ガスよりも
わたしたち喫煙者の立てる
か細いため息のような煙の方が
害があると言いたいのだろう

町に灰皿は一つもなくて
喫煙の出来る店もなくなってしまって
そのうちわたしたち喫煙者は
一人ずつ捕らえられて縄で縛られて
ガス室かどこかで処刑されるかもしれない

そうして世の中には
無菌室で育てられたような
透き通るような純粋な人間ばかりになってしまって
そうなったらどうすればいいのか
わたしのような
煙草の煙と一緒にしか疲れを吐き出せない人たちは
疲れたまま
体操か何かやって深呼吸して
空が青いと思いながら
虚ろな眼で生きなければならないのだろうか

誰もいない裏路地で
ひいひい泣いてから
誰も来ないことを確認して
素早く煙草を吸ってすぐに消した
そんなでも煙草はおいしかった
みじめだった

本当にごめんなさい
でもきっと死にますから
多分すぐに死にますから
いまはもう少しだけ
許してください
と誰かに向かって呟いて
無様に洟をすすりながら
もう一本だけ
今度はゆっくり煙草を吸った


自由詩 喫煙者 Copyright 吉田ぐんじょう 2007-12-21 17:27:51
notebook Home