なだれ
川口 掌
好きだよ 君の言葉が空っぽの心を満たしていく
でも間に合わない
この乾ききった星は潤うはずの心を何処までも吸収し還元する
サイクルが足りない
駆け足で通り過ぎる日常を横目に僕の時間が取り残される
十二月の風は
あの山の頂から枯葉をまとい街の真ん中を駆け抜ける
白く濁った息を吐き出しながら
街の者は風を嫌い玄関のドアを閉ざした
閉ざされる事は心と体を一つにまとめ
あちらとこちらを二分化する
次第に明かりの灯り始めた窓の内側
今から目を逸らし画面を見つめる虚ろな瞳の冬支度
崩れ始めた昨日と
固まる事の無い明日
の狭間で怯える瞳は水の中へ
山の声を聴きながら
川の流れに身を委ねると海は優しく包み込む
空を呼ぶ光の彼方
月は透過し星の涙が降り注ぐ
諦めにも似た感情は囁く気配の中
何処までも深く淀んでいつの間に忘れ去られる
悲しみは
忘れられる事に在るのでは無く
自身の心の内より湧き出てくる
幾度と無く
読み返し計算し直しても変わらない明日
天井の破れ目からふつふつと
零れる木漏れ日にそんな明日が流れ出さぬよう
祈り続ける
好きだよ 満たしていく
空っぽの心を 君の言葉が
でも間に合わない
次第に 確実に
少しずつ 少しずつ
僕の意識が
君の居るその場所から
遠ざかっていく
足元から流されて