ゴーシュ
mizu K
空の鋭角を切りとるように
にじみ出した切りとられた
青い空のカメラ
オブスキュラ
青い空の向こうの黒い宇宙
果ても見て
見ぬふりをして過ごした時間
時間のすきまに
おとずれた空白の薄明のあわい
時間のすきまに
ふとふみこんで足をとられた
そんなとき
彼の人の名を呼ぶ
ゴーシュ
と
黒いくらい森の
緑黒い葉うらの日ざし
ささぬ森の奥深く
その黒い森の中心から
くろい葉とくろい枝にかこまれて見えない
空のことをおもう
そしてまた
名を呼ぶ
彼の人の名を
ゴーシュ
ほの暗き水の底のよどみから
ゆっくりとかま首あげてゆらゆらぐ
おりのように沈んだ水の底が
ゆらゆらぐ、ゆらゆらぐ
ひとりとして帰ってこなかった
ほの暗き水の底のよどみ
数えきれぬほどの年月を堆積した
水の底のよどみから
今
ゆっくりとかま首あげてゆらゆらぐ
その姿
祈りもて、ささげよ
ゴーシュ
かすみて弥生またその日
春かすみてようやくその気配
おぼろな影が一歩一歩
そのかすみにまぎれておぼろな影が
一歩一歩近づく
おそれよ、おそれよ
異形のものの、その姿
もう一度また
彼の人の名を、祈りもて
ゴーシュ
組紐に結いあわせもう
ほどかるることなし
インディオのキープのように
その結び目に意味をもたせ
その空を
鋭角に切り取り
切り取られることに意味をもたせ
その空を
今
また
おそれよ、おそれよ
そしてまた
祈りもて、ささげよ
また奏でよ
ゴーシュ