「春の日」
菊尾

うまく言えないから
靴の先を見つめていた
物思いに更けてばかりで
文庫本も進まないまま
気が桜みたいに散っていく

口癖を真似されて
ぼんやりと指と指を繋いで
不器用な照れ隠しは失敗で
そんな様子を見て
また君が笑い出す

僕の要らない部分を君がどこかへ埋めてくる
気が付くのはいつも後だから
僕はそれをもどかしく思っている
そんな事さえもきっと君は知っているんだろう

夜の内に白い花弁が足元まで積もって
歩けば柔らかく舞い上がる
その肌触りを感じながら
消せない記憶を信じている


ありがとう
って
聞き逃すぐらいの小さい声で君は言うから
いつも耳を澄ましている
けれどそれに気付かない振りで僕らはやり過ごす
振りだっていう事を互いに知りながら


指と指が結ばれて手の平が重なっていく
桜の下を僕らは歩いている


自由詩 「春の日」 Copyright 菊尾 2007-12-20 17:54:02
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