沈黙
蘆琴

おれはひたすら待つてゐるのだ
一筋の沈黙が駆け抜ける瞬間の
余韻に満ちて味わひ深い感動を

たつた一振りで息の根を止める
一瞬の為に費やせる数多の余興
前座どもを一思いに吹つ飛ばす
至高の快楽を求めてゐるのだよ

「ヨォ其処には何も無いのか」
「イヤ、全てが詰まつてゐる」

だからこそ盲共の様に眼を瞑り
光の価値を懐疑して止まぬのだ

私は刀を抜く瞬間を待ち続ける
命は死を待ち続けるものだから

眼を開けると私は老人で在つた
そのやうな懐疑さへも杖にして


自由詩 沈黙 Copyright 蘆琴 2007-12-18 23:54:01
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