[カナリア]
東雲 李葉

彼女はカナリア。歌う鳥。
美しい声で森を奏で自由に空を舞うという。
私は歌を忘れた詩人。
情けないがもはや音を紡ぐ声も出ない。

どこから聞こえる旋律に溜息の拍手を送る日々。
愛する人がいるのだけれど胸に刺を刺す勇気も無く、
白い薔薇の花弁を尖った口でむしってしまう。
貴方のために歌いたいのに。貴方の詩を歌いたいのに。
重みを持たない言葉達は擦れた喉を下りていく。
両目が光を失うその前に、叫ぶように歌いたいのに。
例え天使の声には聞こえなくても、
身を裂くほどに切ない恋で白い花を染めてみたい。
彼女はカナリア。歌う鳥。
愛のために白薔薇を赤い色に染めたという。
私は詩を歌う詩人。
名前のように生きることは容易くないと識り始める。

捨ててしまえばいいのだろうに。昨日までも自分の名前も。
そうしてしまえば歌わなくても良いはずなのに。
だけど滾る熱を伝える術を私たちは一つしか知らない。

彼女はカナリア。私は詩人。
自称するのはおこがましいと思うけど。
私は私の喉が枯れても貴方の詩を歌うだろう。
相も変わらず傷付くことには臆病だけど。

雪のように白い花弁が赤くなるまで歌いたい。


自由詩 [カナリア] Copyright 東雲 李葉 2007-12-17 00:44:20
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